卵巣がん検診と診断
卵巣がん検診
内診、エコー検査が主体ですが、場合により血液検査(腫瘍マーカー採血)も加えられます。
卵巣ってどのような働きをするのでしょう?
卵巣は親指くらいの大きさの臓器で、左右に一つづつあり、骨盤の深い場所に位置して、靱帯(じんたい)と呼ばれるひものような支持組織によって、おのおの子宮および後骨盤に固定されています。
女性が思春期に入り初潮を迎えますと、卵巣の表面に存在するたくさんの未熟な卵胞(原始卵胞)は、脳から出される下垂体ホルモンの刺激を受けて成熟卵胞に変わり、排卵が生じるようになります。そして、排卵をみる頃より卵巣からの女性ホルモン(卵胞ホルモン、黄体ホルモン)の分泌はさらに活発となり、やがて一定の周期をもった月経が確立されることになります。すなわち、卵巣は女性が女性らしくあるために大切な働きをする中心的な器官といってよいでしょう。
卵巣の腫瘍にはどのような種類があるのでしょう?
卵巣にできる「しこり」を総称して卵巣腫瘍と呼びます。卵巣自体はとても小さな臓器ですが、ここには単純にお水がたまったような「のう腫」から、悪性の「がん」に至るまで、いろいろな種類の腫瘍が出現します。そしてこれらは、あらゆる年齢の女性に発生する可能性を持ち、比率的には、全体の約80%はのう腫などの良性腫瘍で、残りの20%前後が悪性腫瘍で占められると考えられています。
卵巣腫瘍の茎捻転
良性の卵巣腫瘍でも気をつけなければならないことがらに、茎捻転があります。これは、大きく腫れた腫瘍がその重みに耐えかねてねじれてしまう現象で、卵巣に血流が回らなくなって、組織に壊死性変化が生じることより、急激な下腹痛をともない、多くは緊急手術の対象となります。このほか、腫瘍が破裂したときにも同じように痛みが出て、やはり手術の適応となる場合があります。
卵巣がんの症状にはどのようなものがあるのでしょう?
小さいうちはほとんど無症状に経過します。したがって、この時期はまったく気づかれずに、たまたま受けた子宮がん検診で見出される場面も少なからず経験されます。大きさを増すとともに、下腹部の腫瘤(しこり)として自覚されるようになり、これが婦人科を受診する直接のきっかけになる方も多いと考えられます。
腫瘍がさらに大きくなると、骨盤内のほかの臓器を圧迫して、下腹痛、腰痛、便秘、排尿のトラブルなどを引きおこします。また、病変の進み具合によっては腹水が溜まり、同時に栄養の摂取不足をともなって、徐々に体重の減少や体力の消耗を来たすケースも珍しくありません。
卵巣がんの診断はどのようにするのでしょう?
まずは、内診とエコー検査を行って内性器のようすを観察します。その結果、腫瘤の存在が認められたなら、良性、悪性を区別する目的で、CT、MRI(画像診断)を始め、腫瘍マーカー検査(採血検査)を実施して、くわしく調べるようにします。
- 婦人科検診
- 内診で子宮の片側もしくは両側に、子宮本体とは明らかに違ったしこり(腫瘤)として触れます。ただ、腫瘤があまりにも大きかったり、腹水が多量に溜まっていたりすると、卵巣、子宮のどちらのものか判別困難なこともあり、これらには、次にお示しする画像の所見が重要な診断材料となります。
- 画像診断
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主にエコー検査(腟式、腹式)が好んで行われます。この方法は手順が簡便であると同時に、検査を受けられる方に特別な苦痛を与えずに済むという利点があります。さらには、内診では見つけにくい小さな腫瘤の発見も可能となります。
X線CT、およびMRIも、エコー検査とともに卵巣腫瘍の診断には幅広く利用される方法です。これらでは良性、悪性のみならず病巣の広がりの程度や、転移の有無についても判断できるため、当院でも必要と思われる方には、積極的におすすめしている検査です(実際のチェックは、地域の放射線科施設にお願いします)。
- 腫瘍マーカー検査(血液検査)
- 腫瘍マーカーとは、腫瘍特異抗原、または腫瘍関連物質と呼ばれるもので、卵巣腫瘍では血液中のCA125、CA19-9、CEA値などを計測します。一般に悪性腫瘍では数値が上昇し、がんの補助診断法としてよく用いられる検査で、通常の採血で容易に測定結果が得られます。
- 腹腔鏡検査
- 腹腔内を内視鏡でのぞく処置によって、卵巣を含めた骨盤内の臓器の状況を診たり、腹水がある場合には、腹水中の細胞の形も確認して診断に応用(細胞診)します。ただ当院では腹腔鏡検査は行っておりません。
先ほども述べましたように、卵巣の病変はなかなか症状が示されず、婦人科領域の中でも早期発見が難しい疾患と言えます。さらに卵巣の表面は、もともと薄い被膜で覆われているといった特徴より、早い段階から悪性細胞が簡単に被膜を通り抜けてお腹の中に散らばりやすく、そのために病状の進行が早いとの特性があります。したがって、年に一度の婦人科検診を心掛けていただくと理想的なのですが、少なくとも急に下腹がふくれてきたとか、妙にお腹が腫れてきたなどの変化をみたら、卵巣の異常も疑ってぜひ外来を受診されるようお勧めします。