生理痛対策原因と治療
頑固な生理痛の場合には子宮内膜症の有無をチェックし、症状や検査値に応じて鎮痛剤、ピル、点鼻薬などのお薬を処方したり、定期的に皮下注射を行うなどの治療をすすめてまいります。
生理痛(月経困難症)はどうしておこるのでしょう?
毎月の生理痛でお悩みの女性は決して少なくはないようです。ご妊娠やご出産の経験を持たないお若い年齢層では、骨盤の中に病気がみられない、言わばホルモンのいたずらによって引きおこされる機能的なケースが一般的なのですが、それでも月々の辛さでご家族をはじめ周囲の皆さまに迷惑をかけたり、お仕事の能率が著しく低下して滅入ってしまうなど、ネガティブな体験をされる方も多いと思います。
生理痛はじっと我慢している必要はありません。よく、痛み止めを使うとくせになったり、からだによくないなどと言われる人もいますが、そんなこともありません。適正なお薬の使用で早めに痛みから解放されたほうがお得なのです。
ただ一方で、鎮痛剤にも抵抗を示すような頑固な生理痛の方も確かにいらっしゃいます。こんな場合には、ご本人が気付かれなくても、「子宮内膜症」をはじめ骨盤内に病気が存在することがあります。
このように生理痛の原因は、病気に基づく器質的なものと、病気でなくてもおこり得る機能的なものとに分けられますので、個々の原因に応じた細やかな対応が必要とされます。
子宮内膜症ってどんな病気?
生理痛を伴う代表的な疾患の子宮内膜症は近年増加していますので、ここでは少し内膜症について触れさせていただきます。
まず子宮内膜ですが、これは本来、子宮の内腔に存在する粘膜組織です。排卵のあとに厚みを増し、妊娠がなければいったん剥がれて、生理の出血(月経血)として子宮腔からきれいに排出されます。 ところが、この内膜あるいは内膜に似た組織が、ときに子宮内ではなくほかの場所、たとえば子宮筋の中、卵巣、卵管内などに潜り込んで発育してしまうことがあります。これら の場合でも、内膜(様)組織は生理に一致して剥がれようとするわけですが、出る場所がないため、その局所で小出血をおこし、とてもきつい痛みの一因となります。この病態が子宮内膜症です。 ことに、この状況が長いこと繰り返されますと、子宮が腫大(子宮腺筋症)したり、卵巣も腫れ(チョコレートのう胞)、さらに骨盤の中に癒着が増して、いわゆる凍結骨盤(骨盤内の臓器が互いに癒着し動きが悪くなった状態)になると、生理のときばかりでなくふだんでも、腹痛、腰痛、性交痛などが出現してきます。また、放っておくと不妊にもつながる恐れのあるやっかいな病気なのです。
さらに加齢とともに、卵巣チョコレートのう胞のがん化の心配も指摘されます。
子宮内膜症の成因
生理中、子宮内膜は子宮腔から剥離し月経血として腟側に排出されますが、この血液の一部が子宮内から逆に卵管を通ってお腹の中へばらまかれ、そこで発育した結果、このような病態が引きおこされるとの説が有力です。しかしながら、まだはっきりとした理由はわかっていません。
当院で行っている子宮内膜症の診断について
まずは内診で子宮、卵巣の大きさ、癒着の有無などをチェックし、同時にエコー検査で骨盤内のようすも確認いたします。骨盤内の癒着が強くなると各臓器の動きが悪くなり、診察時にも痛みを感じるようになります。 子宮が腫れたようす(腺筋症)は内診、エコー診で確認されますし、また卵巣に血液がたまったチョコレートのう胞も、同様に内診と画像診断が有力な診断法となります。 あとは採血検査で血液中のCA125値(マーカー)を計測したり、MRIやCTなどの画像が参考になることもあります。
子宮内膜症の治療について
薬物療法と手術療法がありますが、一般的には、いろいろなお薬を使った薬物療法が第一選択になります。
薬物療法
鎮痛剤やピルを除くと、基本的にはお薬で女性ホルモンの一種の卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌量を低下させて、低エストロゲン状態を作り出し、しばらくの間生理を止めたままにして、子宮内腔以外の場所にもぐりこんだ内膜組織を溶かして吸収させてしまおうとする治療法です。
- A) 鎮痛剤
- 毎月生理の始まる前兆があったら服用を開始します。ロキソニンやボルタレンなどお薬によってはかなり痛みをコントロールすることが可能です。これらは次に述べるプロスタグランディン(Pg)の合成をブロックするもので、機能的な生理痛には効果が期待できますが、内膜症の根本的な治療にはなりません。
- B) 低用量ピル
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ふつう排卵のあったあとに、卵巣から黄体ホルモン(女性ホルモン)が分泌されます。そしてこの黄体ホルモンが子宮内膜中にプロスタグランディンという物質を増加させ、このプロスタグランディンは子宮を収縮させる作用を持ち合わせていますので、腰痛、腹痛をはじめとする生理痛を誘発すると考えられます。したがって、痛みを楽にするには、排卵を止め黄体ホルモンの分泌を抑え込んでしまう対応が有効です。
それにはピルが最も簡便な方法で、排卵は抑えられますが生理は停止しないことからも使いやすく、比較的症状の軽い方が適用となります。内膜症に対しては保険適応となる低用量ピル(ルナベル)も発売されています。
- C) ディナゲスト療法
- 最近開発された黄体ホルモン剤です。このお薬を持続的に服用すると低エストロゲン状態が生じて排卵もストップし、優れた鎮痛効果が得られます。また、ディナゲストは内膜症に直接働きかけ、病巣を縮小させる作用も有します。比較的長期間の投与が可能で、その間生理は止まりますが、副作用として不正出血を訴えられる方が多いようです。
- D) GnRHアゴニスト療法
- 子宮筋腫の治療のところでも触れましたが、卵巣に対して排卵を促す指令を与える脳の中枢に直接ブレーキをかけ、排卵を抑制する方法です。月経困難に効果があると同時に、内膜症の縮小や委縮効果も期待できます。皮下注射(リュープリンなど)と点鼻薬(ブセレキュア、スプレーキュア、ナサニールなど)があり、通常半年間を1つの周期として治療します。治療中生理はなくなりますが、治療が終了とともに復活します。副作用としては、のぼせや発汗などの更年期様症状の出現をみる場合もあります。
- E) ダナゾール療法
- ボンゾール(ダナゾール)というお薬を定期的に服用して女性ホルモンの分泌を抑制し、内膜症の諸症状の改善を図ります。排卵や生理が停止することから偽閉経療法とも呼ばれますが、性器出血などの副作用に配慮して、投薬はやはり半年間を1つの区切りとして行われます。
レボノルゲストレル子宮内システム(IUS)療法
レボノルゲストレル子宮内システムは、黄体ホルモンを浸みこませた装置(ミレーナ)を子宮の中に入れて、ホルモンを徐々に放出させる方式によって内膜の発育をおさえ、生理痛を楽にしたり、出血量を減らしたりする効果が期待できる治療法です。
もともとは避妊のために開発された仕組みですが、一度子宮内に挿入すると5年近く効き目が持続するといわれ、最近、保険の適応となり月経困難症や過多月経の方に用いられるようになりました。
手術療法
第一選択の薬物療法を行ってもあまり効果がみられない進行例や、お薬の投与を休止すると再び病状が悪化するような方には、内膜症病巣の摘出や癒着をはがす目的で手術を考慮します。この場合、開腹手術のほか、とくに癒着の剥離などには、お腹を開けなくてすむ腹腔鏡を用いた内視鏡下でのアプローチも行われます。
※このように子宮内膜症には現在いろいろな治療が行われています。薬物療法ひとつを取っても、上記に説明したような種類がありますが、これらから、おひとりおひとりの症状の程度やご希望(痛みを一時的に軽くするだけでよい、あるいは妊娠まで希望しているなど)に沿って最適な方法を選択していくことになります。